『つな木』の技術とノウハウを結集
100年後も成長し続けるアリーナを

使う人、建てる人、近くに暮らす人...。アリーナ建設プロジェクトに関わる「みんな」に、新アリーナの夢や希望を聞くスペシャルインタビュー。今回は、株式会社日建設計の大庭拓也さんを取材。新アリーナの設計を担当する大庭さんは、アリーナプロジェクトが始動した当初から深く関わってきました。現在に至るまでのさまざまな出来事を振り返ってもらいます!

輝かしい実績を持つ大庭さん。新アリーナのデザインにおけるキーパーソン!

紆余曲折のアリーナ計画を救った「ある言葉」

――現在、アリーナ計画にはどのような形で関わっていますか?
設計全般を担当しています。計画が具体的に動き出したのは2019年だったと記憶していますが、私はプロジェクトの始動段階、つまりコンセプト設定の頃から参画しました。当社がプロポーザル(事業者選定)にぜひとも参加したいと思った理由は、アリーナプロジェクトの事業者であるアイシンの方々に「木造アリーナを造りたい」という強い意向があったからです。

「Nikken Wood Lab」では、木材を用いた新しい建築デザインに取り組んでいます。森林(もり)と都市(まち)の新しい関係を見いだす「つな木」プロジェクトを推進しており、その一環として、45mm角の木材を固定する専用クランプ(材料を固定する工具)を開発しました。これは大人も子どもも簡単に組み立て・解体ができる変幻自在の木材ユニットです。この技術開発の基礎となっている「有明体操競技場」や「選手村ビレッジプラザ」などの実績、そして背景にある考え方に興味を持っていただいたのだと思います。

――現在のデザインはどのようにして生まれたのでしょうか?
コロナ禍の直前、当時のシーホース三河の球団社長やプロジェクトの担当者と、NBAのアリーナ視察のため渡米しました。VIP席や周辺環境、街とのつながり方など非常に参考になり、そこで新アリーナの原案がほぼ固まりました。その場でスマートフォンに描いたスケッチを、お見せしたことをよく覚えています。

「マルチコンコース」のアイデアもこの視察によって生まれました。新アリーナ1階に設けられるマルチコンコースは、約6mの幅を持つゆとりある空間です。そこに配置された木質ユニットを組み替えることで、イベント時には賑わいのある空間となり、平時には開かれたパブリックな空間へと姿を変えます。これは「つな木」で培ったノウハウを応用したものです。

当時から議論していたのは「アリーナの稼働」についてでした。バスケットボールの試合で使用されるのは、年間30〜40日程度に限られます。それ以外の300日以上を、どのように活用すべきか。この視察でその答えが少しずつ明確になっていきました。

――コロナ禍もあり、いろいろと大変だったと想像します
おっしゃる通り、決して順調に進んできたプロジェクトではありません。パンデミックや資材高騰による計画変更など、語り尽くせないほどの紆余曲折がありました。特にコロナ禍においては精神的にも厳しく、正直に言えばプロジェクトが頓挫しかねない状況もありました。そうした中で、アイシン関係者のお一人が「打ち合わせをストップすると疎遠になるから、2週間に一度はWEBミーティングしようよ」と言ってくれたのです。その言葉に救われましたね。先が見えない状況だったので、具体的な提案はできず、ミーティングと呼べる内容ではなかったと思います。それでも、みんなでアリーナの夢を持ち寄って、「こんなことができたらいいね」「ここの名前はどうしようか」と語り合って…。当初は10名程度で始まったプロジェクトも、現在は設備や土木を含め、当社だけでも関わるスタッフは50名を超えています。あのときの時間があったからこそ、今があるのだと感じています。

「渋谷区立北谷公園」や「選手村ビレッジプラザ」などさまざまなプロジェクトに関わってきた

45mm角の木材を固定する専用クランプ。誰でも簡単に組み立てができる

最近は体を動かすことが趣味で、フットサルしたり皇居の周りを走ったりしているそう

三河安城だから実現した日常に溶け込むデザインとスケール感

――安城市および三河エリアの印象を聞かせてください
安城市は在来線と新幹線の両方が通り、新アリーナも駅から近く、大きなポテンシャルを秘めた場所です。都市開発においてTOD(Transit-Oriented Development:公共交通指向型開発)と呼ばれる手法があります。駅などの公共交通拠点を中心に、人の移動やオフィス、住宅などの配置を考える街づくりです。私たちは、駅から歩いてアリーナに行く動線についても提案しました。

都心部にあるアリーナは、巨大なワンフォルムというイメージがあると思います。一方で新アリーナは、郊外的なスケールを生かし、メイン・サブアリーナなど多様な大きさの建物が並ぶ構成としています。公共施設として日常的な利用も想定し、スポーツやイベントを楽しむ場であると同時に、いつでも訪れたくなる「交流の場」を目指しています。もしこれが東京でのプロジェクトだったら、私たちも全く異なる提案をしていたでしょう。

――それにもしても外観のデザインが印象的です
構造の合理性だけ追求すると、建築としての面白みは限定してしまいます。そこで、木材の活用や地域産業との連携、日常と非日常の共存といった「つな木」で培った考え方と技術をこのアリーナに結集させました。

アイシンさんは当初、木造アリーナを望んでいましたが、多目的利用を前提に検討を重ねた結果、最終的には「木と鉄のハイブリッド構造」を採用しています。鉄骨トラスの下部に木材を組み込み、強度を補完する仕組みです。将来的に木材の交換が必要になれば、地域産業で活躍する方々の出番です。

個人的に嬉しかったのが、アイシンさんが早い段階から「みんなのアリーナ」として、コンセプトや完成予想パースを積極的に公開してくれたことです。大規模プロジェクトでは、変更リスクを避けるため直前まで情報を伏せるのが通例ですが、マルチコンコースや外観(ファサード)を具体的に発信してくれたことで、クライアント・設計・施工の全員が一つの船に乗って進む「シンクロ感」が生まれました。

――今後へ向けたメッセージをお願いします
個人的な願いですが、私はこのアリーナにはずっと関わっていきたいと考えています。なぜなら、「完成して終わり」ではなく「完成後も成長し続けるアリーナ」だからです。

日本では今、高度経済成長期に建てられた多くのビルや施設が更新期を迎えようとしています。昨今の課題を踏まえながら、20年後や30年後に次の世代の設計者が関われる建築をデザインするのが、現代の設計者の使命だと思っています。新アリーナは、時代に合わせて増築したり、場合によって規模を抑えたりすることが容易な設計になっています。「将来を見据えて、今のうちにこの基礎だけは打っておきましょう」という提案も、その一環です。

マルチユニットをはじめ、新アリーナには多くの「参加できる仕組み」を盛り込んでいます。チームや地域の方々など、みんながデザイナーになり、共に創っていけるアリーナです。20年後や30年後、そして100年後…その時代を映し出すように、みんなでこのアリーナの姿を更新していってほしい。私自身も、一人のファンとして、あるいは設計者としてかはわかりませんが、その過程に関わり続けていきたいですね。

株式会社日建設計 設計監理部門 テックデザイングループ Nikken Wood Lab ダイレクター
大庭拓也(おおばたくや)
PROFILE
福岡大学建築学科卒業、東京工業大学大学院建築学専攻修了後、株式会社日建設計に入社。2018年の社内コンペを経て設立された「Nikken Wood Lab」の発起人兼代表を務める。日本建築学会作品選集新人賞や農林水産大臣賞、環境大臣賞など受賞歴多数。主な実績に、東京2020オリンピックの「有明体操競技場」や「選手村ビレッジプラザ」の設計などがある。