三河安城を『通過駅』で終わらせない
誰もが楽しめる『目的地』にしたい

使う人、建てる人、近くに暮らす人...。アリーナ建設プロジェクトに関わる「みんな」に、新アリーナの夢や希望を聞くスペシャルインタビュー。今回は、シーホース三河株式会社 取締役/チームディレクターを務める佐古賢一さんを取材。「地域密着を実現するため」に大切なこととは。現役時代に「どうすればバスケをメジャーにできるか」を常に考えていた、佐古さんらしい熱のこもったインタビューです!

「新横浜駅の発展を見てきた。三河安城もそうなれる可能性があると思っている」

いつも明るくてポジティブな佐古さん。楽しい話をたくさん聞かせていただきました!

――現在のお仕事について教えてください
シーホース三河株式会社の取締役、そしてチームディレクターという二つの役割を担っています。具体的にはトップチームの編成です。「どんなチームを作り、どんな選手を集めるか」に大きな責任を持っています。一方、取締役としては社内会議に出席し、各部署の課題や動きを把握した上で、組織全体を一つの方向に向かわせるのが役割です。アリーナに関しては、理事という立場で理事会に参加していますが、現場で直接的に実務を動かしているわけではありません。

――佐古さんは、2023年7月から約半年間にわたって開かれた「アリーナのつかい方ワークショップ」に参加されていました
数回でしたが、安城市民の方と一緒にアリーナの活用について考えるワークショップに参加しました。当時はまだ詳細を伝えられる段階ではなかったため、私自身も参加者のような感覚で皆さんの話を聞いていましたね。「なるほど、そういうことか」と学ぶことも多く、皆さんと一緒に楽しみながら、アリーナへの理解を深める貴重な時間となりました。

――ワークショップの終盤で語られた「新横浜駅」のエピソードが印象的でした
私が小中学生の頃、新横浜駅は「こだま」しか停車しない駅でしたが、現在はすべての新幹線が停車し、周辺も大きく発展しています。そのきっかけは2002年のサッカーW杯だったと確信しています。W杯開催という大きな目的に向けて駅ビルが建ち、地下鉄がつながり、街全体が劇的に変化しました。現在の三河安城駅は、残念ながらまだ「通過する駅」かもしれません。でも、アリーナが完成すれば、安城市が「足を運ぶ目的地」に変わる可能性を秘めています。これは、街の歴史を塗り替える大きなチャンスだと思っています。

――もし現役時代に戻れるなら、アリーナの完成やそこでのプレーをどう感じますか?
アリーナに限らず、自分の現役時代である20年ほど前と比べると、正直「羨ましい」という言葉だけでは足りません(笑)。それくらい進化しています。私たちの時代を25%とするなら、今はもう100%と言ってもいい。しかも、これが天井ではなく、もっと伸びる可能性も秘めています。

当時は実業団チームで、観客の多くは社員や家族でした。遠征も、刈谷駅から自分たちで大きな荷物を持って在来線で名古屋まで移動し、そこから新幹線に乗るのが当たり前。食事も専門の栄養士などはおらず、宅配弁当でカロリー計算をしながら、家族とは別のメニューを食べる生活でした。今はBリーグが基準を設け、移動の快適さや宿泊施設のグレードまで管理されています。

――メディアの取り上げ方も当時とは違いますよね?
当時、まだバスケットボールはマイナー競技という位置付けだったと思います。ネットで全試合観られるなんて想像もできませんでした。あの頃の三河は代表選手も多く、優勝も経験していたのでメディア露出は多いほうでしたが、それでも今とは雲泥の差です。私はマネジメント関連の法人を立ち上げ、「どうすればバスケをメジャーにできるか」を常に考えていました。オフシーズンも必死に動いて、ようやくバラエティ番組などに呼んでもらえるような時代だったんです。今は最初から高い舞台が用意されている分、選手には周囲の期待や責任に応えられる存在であってほしいと願っています。

「2025-26シーズン TIP OFFパーティー」で決意を述べる佐古さん

現役時代は“ミスター・バスケットボール”とも称され、数々のタイトルを獲得

「一方的に提供するだけではいけない。地域密着を掲げる以上、人と人との関係を大切にしていきたい」

――新アリーナの自慢したいことは?
クラブハウスやサブアリーナ(練習場)がメインアリーナに隣接していることです。これは大きな意味があります。選手にとってルーティンは大切で、日常の練習場所でそのまま試合に臨めることは、パフォーマンスを最大化する最高の武器になります。また、同じ敷地内にクラブハウスがあることで、我々フロントと選手の距離も近くなる。この「距離感」がすごく大切だと思っています。

――どんなアリーナにしていきたいですか?
「すべての人に喜んでもらえる場所」にしたいですね。ファンも、バスケファンではない方も、そして自分たちも、みんなが楽しめる場所に。「アリーナに行けば何か楽しいことがあるよね」と地域の皆さんに期待してもらえるよう、本当に勝手な願望ですが、お祭りや花火のような企画も実現できればいいなと思っています。

我々はエンターテインメントを提供するのが仕事ですが、地域密着を掲げている以上、単なるビジネスの関係ではいけないと思っています。少し話が脱線しますが、私がシニアプロデューサーとして三河に帰ってきた1年目。あるラーメン店でこっそりと一人で食事していたんですけど、会計のときに親子に声をかけられたんです。どうやらシーホース三河のファンの方で、お子さんはバスケをやっていて「(うちの子は)シュートが全然入らないんで、どうにかできませんか!」と私に言うわけですよ。内心、私は「えーっ!」って(笑)。店員さんや他のお客さんも注目するから恥ずかしかったんですけど、その場でシュートを教えて…。

――ラーメン店でですか?
ラーメン店で(笑)。そのときは急に話しかけられることに慣れておらず、本当に恥ずかしくて。でも、今思えば微笑ましくないですか。「身近にバスケットを通じて会話してくれる方がこんなにいるんだ」って。そのご家族は今でもシーホースを応援してくれていて、アリーナで会うと声をかけてくれます。ラーメン店のこともよく覚えているみたいで。地域密着ってこういうことかなって。

私は人がきっかけとなって夢中になることが多いです。いろいろな競技の方と仲良くさせてもらっていますけど、最初は友人や知人に「面白いから行ってみようよ」と誘われて、そこから夢中になっていく。誰かと知り合って、その人の人間性とか親しみやすさとかを知り、それをきっかけに応援することに。そんなサイクルじゃないかって思っています。「観戦したければどうぞ」のスタンスでは、絶対に地域密着は実現しない。いいものを提供するために、いい関係性を作っていく、そのサイクルを間違えてはいけないと思います。

だから、チームディレクターとしても選手のコンディションが整い、安全が担保されているなら、選手とファンが触れ合える機会を作っていきたい。それを実現させるためにも、先ほど述べたフロントと選手の「距離感」が大事なんです。今はフロント側ですが、私自身、選手もヘッドコーチも経験しましたし、それぞれの事情があることもわかります。その経験を生かして選手に伝えられるのが強みと思っています。

地域の方々、私たち、みんなが自然とつながれる場所に。アリーナを拠点にそんな関係性が生まれていけばと思います。

――最後にファンの方々へメッセージをお願いします
楽しい場所にするのは前提として、チームディレクターとしては「ホームで絶対的な勝率を誇るチーム」でありたいですね。連続でチャンピオンシップに進出し、再びシーホース三河が強豪と認知されたタイミングだと思っています。それを継続させるのが重要。楽しい気分で帰ってもらうためにもホームゲームで7割、できれば8割以上の勝率を記録したい。多くの期待が選手のプレッシャーにつながることもありますが、いい緊張感はいいパフォーマンスのために必要です。新アリーナでそんな雰囲気を作りたいです。そして「この前の試合、最高でした!」って喜んでもらうことが私のモチベーションですね。

シーホース三河株式会社 取締役/チームディレクター
佐古賢一(さこけんいち)
PROFILE
元バスケットボール選手。1993年にいすゞ自動車株式会社に入社し、2002年にアイシンシーホース(現シーホース三河)へ移籍。現役時代は数々のタイトルを獲得した。引退後は、男子日本代表アシスタントコーチやレバンガ北海道のヘッドコーチなどを歴任。2023年にシーホース三河へ復帰し、現在はチームディレクターとしてトップチームの編成を担当している。趣味はゴルフと旧車のバイク。